受け継ぐ
| 所在エリア | 鎌倉市梶原 |
|---|---|
| 種別 | 戸建 |
| 価格帯 | 9800万円 |
| 媒介形態 | 媒介 |
| 売却までの期間 | 5年間 |
私たちは、不動産を売る会社である前に、大切な資産や想いを次の世代へ受け継ぐお手伝いをする会社でありたいと考えています
2021年6月。一本のご紹介のお電話から、この物語は始まりました。
「ぜひ一度相談に乗ってあげてください」
ご近所にお住まいのO様からご紹介いただいたのが、売主のK様との出会いでした。実は、お様からは以前にも賃貸オーナー様をご紹介いただいており、そのご縁は今も続いています。だからこそ、「今回も期待を裏切るわけにはいかない。」そんな思いで、私は梶原のご物件へ向かいました。
門をくぐり、建物を目にした瞬間、思わず言葉が漏れました。
「素敵な茶室ですね。」
約200坪の敷地に建つ重厚な日本家屋。そして、細部にまでこだわって造られた本格的な茶室。一本一本の木材、庭の佇まい、建物全体から伝わってくる空気感。
その瞬間、私は心の中で思いました。「この家に関わりたい。」それが、この五年間の始まりでした。
「父が三年かけて建てた家なんです。」建物を案内していただきながら、K様は静かに話してくださいました。
その一言で、この家を単に売却物件として扱ってはいけないことが分かりました。ご家族の歴史があり、思い出があり、時間をかけて大切に育ててきた家。K様も、「できれば、この家をそのまま使ってくださる方に引き継ぎたい。」というお気持ちを持っておられました。実は私も、同じことを考えていました。
周囲では広い土地を分割して新しい住宅を建てる例も少なくありません。もちろん、分割した方が早く売れるかもしれません。しかし、この家は違いました。私は、この家だけは壊してほしくない。
茶室も庭も、そのまま受け継いでほしい。そんな思いが、K様と自然に重なりました。
実は、この家はすでに大手不動産会社で約二年間販売されていましたが、なかなか買い手は現れませんでした。
駅から少し距離があること。
約200坪という広い敷地。
価格も決して安くありません。
K様は、「やっぱり価格が高いから売れないのでしょうか。」と心配されていました。
しかし、私は何度も内見に立ち会う中で、別の理由に気付きました。
建物は素晴らしい。
ところが、長く人が住んでいなかったため、室内全体が暗く、床や壁にも少しずつ年月の影響が出始めていたのです。
内見された方は、建物本来の価値ではなく、第一印象だけで判断してしまう。
それが、とても残念でした。
普通なら、「価格を下げましょう。」という提案になったかもしれません。でも、私は違う方法を考えました。
「一度、売却を止めて、賃貸にしませんか。」
K様は驚かれました。
二年間売れなかった家を、今度は貸す。普通なら思いつかない提案だったと思います。
でも、このまま空き家を続ければ、建物はさらに傷んでしまいます。
それだけは避けたかったのです。
私はさらにご提案しました。
スタジオなど事業用で募集しましょう。
そして、借主によるリフォームもOKにしましょう。
リフォームによって、K様の負担は無く建物が活かされる可能性があります。
K様は少し考えられた後、
納得してくださいました。
その後、建物はある企業に定期借家としてお貸しすることになりました。
そして、予想していたことが現実になりました。借主企業は、この建物に約1,500万円をかけてリフォームしてくださいました。室内は見違えるほど明るくなり、建物は再び息を吹き返しました。
庭の手入れは、鎌倉日和から庭師をご紹介して、その仕事ぶりや値段を気に入っていただき、今ではK様のご自宅の庭も、その庭師が手入れをされています。
雨漏りが見つかった時には原因を一緒に調べ、修繕方法を検討しました。
賃貸中も、貸主様と借主様の間に立ち、小さなことでも安心していただけるよう心掛けました。
振り返れば、この三年間は「管理」ではありませんでした。
この家を、未来へ受け継ぐための時間だったのだと思います。
3年間の賃貸契約が終わり、再び売却のお話になった時、K様は自然に「今後の売却も、ステイ・フィールドさんにお願いします。」というお気持ちでいてくださいました。
特別な言葉はありませんでした。
でも、そのお気持ちは十分に伝わっていました。
五年間、何かあるたびにお電話をし、一緒に考え、一緒に悩み、一緒に喜んできた時間がありました。
私にとって専属専任契約とは、一枚の契約書ではなく、五年間積み重ねてきた信頼の証でした。
2026年。
ようやく、この家を心から気に入ってくださるご家族と出会うことができました。
買主様は茶室をご覧になり、大変喜んでくださいました。
実は、お隣には作家・立原正秋さんがお住まいで、この茶室でお茶を楽しまれていたそうです。
その歴史も含めて、この家を受け継いでくださる方でした。
さらに、不思議なご縁もありました。
買主様とK様は同じ学校のご出身。
さらに
買主様のご子息は、K様のご主人と同じ高校のご出身。
売主様もK様ご自身も、そのご縁をとても喜んでおられました。
価格だけでは測れないご縁が、この家を結んでくれたように思います。
契約の日。
もちろん嬉しい気持ちはありました。
でも、それ以上に私の心にあったのは、
「もう、この茶室に入ることもないのだな。」
という少し寂しい気持ちでした。
ただ、契約の手続きが終わった後、K様が昔のアルバムを持ってきてくださって、茶室での楽しい思い出話を聞かせてくださいました。
買主様は、K様ご家族の思いを受け継げることがとても嬉しいとおっしゃっていただき、この家に関わって本当に良かったという気持ちで満たされました。
五年間、この家と関わってきました。だから、この家にも愛着が湧いていました。
しかし、その寂しさ以上に嬉しかったことがあります。
それは、久保井様のお父様が三年かけて建てられたこの家が、壊されることなく、新しいご家族へ受け継がれたことです。
もし、「早く売ること」だけを考えていたら、この結果にはならなかったかもしれません。
一度立ち止まり、賃貸という選択をし、建物を守り、時間をかけて待ったからこそ、このご縁につながりました。