トリプル安で売られる米国
4月2日に発表されたトランプ大統領による相互関税は世界経済に大きな波紋を呼びました。
震源地である米国のS&P500は今年の高値から20%超の下げを記録しており、すでに2024年から今年にかけての上昇分をすべて消すような強烈な下落となっています。
ただし、先週は株式マーケットだけにとどまらず、米国債、さらには為替市場では米ドルに対する売りも加速、米国株、米国債、米ドルのトリプル安となったことで、米国からの資金逃避の様相を呈しました。トリプル安という状況は、市場が米国に対してNOを突き付けていることになり、米国から資金が抜けることで景気後退を招きかねない最悪の状況といえます。特に、これまで世界の中での安全資産と位置付けられていた米国債が売られ金利が上昇しているにもかかわらず、基軸通貨である米ドルも売られている状況は深刻で、もしこれが過度に進んでしまうと米国社会の持続可能性を揺るがす事態になりかねません。
やはりその背景にはトランプ大統領が米金利を下げることを一つの至上命題に据えていたことがあると思われます。
米金利を下げれば
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ドル安で貿易を助け、歳出の多くを占める利払いを削減することもでき、貸出需要を喚起することもできる
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結果、景気を押し上げることにつながります。
金利を下げるために、FEDによる利下げを促したいのはやまやまですが米国のインフレはいまだ燻っていることに加え、トランプ関税が将来一時的にでもインフレをもたらす可能性があるこの場面で利下げに踏み切ると、インフレを加速させとんでもないことになる恐れもあります。そこで、景気減速局面であることを市場に植え付け米金利低下(リスク回避の米国債買い)を促し、エネルギー価格を下げインフレを抑えるというシナリオを思い描いていたのではないでしょうか。
ところが、その過程で市場がトランプ関税を否定しはじめ、想定以上に世界が恐怖した結果、米国債が売られ金利の急上昇につながった。
この米国債売りによる金利上昇については、SNS上などで様々な憶測も飛び交っていますが、重要なのはトランプ大統領の描いていた関税を含むシナリオに株式市場のみならず、債券市場がNOを突き付けたことであり、結果として、ついにトランプ大統領が中国を除く75カ国に対する相互関税導入を90日間延期することを発表するに至ったことにあります。
債券市場の混乱は、市場としての役割という意味においても、トランプ大統領の政策を遂行する上でも、株式市場の混乱とは深刻度が全く異なるということ。そういう意味では、先週の市場の動きはやはりトランプ政権としては誤算であり、今後もリスクオフのトリガーを引かぬよう債券市場のボラティリティには注意を払っていくものと思われます。
2025年4月2日以前とそれ以降では、世界経済の構造自体が変わっているという事実には目を向けるべきであり、トランプ政権が投げかけたグローバル社会への挑戦には引続きリスクがつきまといます。そんな状況で90日間の延期期間中に各国との交渉において前向きな変化が見られるのかがしばらく注目点となるでしょうし、準備を怠らないようにしなければなりません。